絵てがみの心 Ⅰ

<第1話 手紙の再発見>

ニューメディアと云われる電話・FAX・パソコン通信・インターネットなどに隠れてオールドメディアの手紙は、利用者が落ち込んでいると言われています。「手紙文化」という言葉もあり、「手紙の形式」が出来上がっていましたが、やはりどこか時代の変化に取り残された印象がありました。
ところが最近、「絵手紙」がブームになってから、手紙の良さが見直されてきました。時代の変化として、映像化時代、物より心の豊かさ、高齢化社会などに適合した手紙としての「絵手紙」が新しい価値として認められたのではないでしょうか。
絵手紙は、手紙と絵を結合させたものですが、私はその比重を6対4か7対3と考えています。「絵手紙は、絵でなく、手紙です」手紙は普通、切手を貼って、ポストに投函して、宛先に配達されるものです。言葉を変えれば、手紙は「郵便」「郵便物」です。しかも、ダイレクトメールと異なり「信書」と言われています。人の心を伝える信書は信書の秘密として憲法で守られています。「人の心を伝える信書」これが手紙の本質であり、絵手紙の良さに引き継がれているのだと思います。皆さんも、手紙の本質とか、人間にとって手紙が持つ魅力など、手紙の再発見・再認識を是非ともしてください。

<第2話 絵手紙を描く動機・目的>

私たちは絵手紙を何のために描くのでしょうか。芸術作品を描こうとか、絵の展覧会に応募して入選したいとか、絵を売ってお金を稼ごうとか考えて、絵手紙の絵を描きますか?
絵手紙の描く動機はもっと単純です。「一人暮らしをしている母に手紙をだそう」「単身赴任している夫にだそう」とか、「あの人に手紙を出そう」という気持ちから描き始めます。文章だけの手紙でなく絵も添えた手紙を・・と。ここが、油絵、水彩画、水墨画などの絵を描く時の気持ちと大きく異なる点です。気持ち、心の持ち方が違っていいのです。
肩を張って芸術的な上手い絵を描こうと考えないことです。逆に、絵はヘタでもかまわない、自分の気持ちを素直に、あの人へ伝えようと取り組むことです。繰り返し言いますが「絵手紙は手紙です。」

<第3話 プロでないことの良さ>

手紙は、プロの画家や書家でなくとも、誰でも書くことができます。絵手紙も上手く描こうと思わなければ、誰でも描くことができます。
プロの画家は、職業であり仕事ですから、いろいろな制約できたり苦しいことがたくさんあります。絵が売れないと生活も大変です。ところがよい趣味として絵手紙を描く人は、伸び伸びとした自由さがあります。無理をしない素直なこころで取り組むことができます。画家が描く絵は、芸術的な上手い絵でしょうが、私たちの絵手紙は、ヘタでよい、ヘタがよいと言っています。
「ヘタ」と言う言葉の意味は、深く掘り下げて考えたい意味を持っています。
幼児の絵、技法を知らない絵、無心に描いた絵、プロ的でない絵、庶民的な絵、素朴な絵、理屈っぽさのない絵、生活に結びついた絵、その人の心を伝える絵 などなど。

<第4話 10人10色の絵手紙を>

私たちの絵手紙は、プロでない一般の人が描く手紙です。10人の人が集まれば、10人の顔が違うように描く絵手紙は10人10色が理想です。
講師の先生が描く絵手紙と同じ絵手紙を描く必要はありません。講師と同じようなものがたくさん並んでいたらむしろ不自然です。講師のものをお手本にして描けば10人皆同じに描けるでしょう。しかし、その人の個性・心は出てきません。その人の心が出ない絵手紙なんて描かないほうが良いと思います。
みな同じ筆の線、同じような構図、彩色も同じで、文章の言葉もおなじようにぶっきらぼう。時にこんな絵手紙展を見ることがあります。がっかりします。絵手紙の絵はヘタでいいんだ。という意味は「他人は他人、私は私」で10人10色が良いという相違を大事にするということでもあります。
講師の描く絵手紙だけが絶対的なものではありません。一人一人の良さ(心・味)がある絵手紙こそが本物だと思います。

<第5話 絵手紙の文章>

絵手紙は手紙ですから、必ず文章を書きます。文章(言葉)の無い絵手紙はどこか気が抜けています。締まらないという感じです。
コンクール(絵手紙に順位をつけたり、当落を決めたりするのは、あまり賛成できませんが)などで、 最終的に決める場合、私は絵手紙の絵でなく文章で決めます。その人の心が、どれだけ感動を与える表現の文章で書かれているか!です。
書く場所は絵を描いた余白に書きます。ただし、余白も絵の一部ですから、すべての余白を使わないようバランスを考えて下さい。絵を大きく描き余白の無い時は、一字でも二字でも言葉(字)を書いて下さい。風景画の場合も同じです。
「どんな文章を書きますか?」描いた絵と関連してもよし、関連しなくてもよし。あなたのその時々の感動・感激など、あなたの心の動きを表現する文章・言葉を考えて書きます。「あの人に出す手紙」ですから、あの人に伝えたいあなたの、喜び・楽しみ・優しさ・思いやり・愛しさ生き甲斐・満足などの気持ちを、言葉・文章で探して書きます。
文章の字は書家のように上手くなくてよいのです。絵と同じく上手いヘタではなく、自分なりの味のある字でよいのです。上手すぎて読めない字は困ります。誰でも読める字で書いて下さい。

<第6話 絵手紙の絵は上手くなくていい>

「絵手紙は技法よりもこころというが、心(気持)で描くにはどうしたらよいか?」と質問を受けます。油絵、水彩画、水墨画など絵手紙教室と異なり、絵の技法を専門に指導しなくてもよいと思いますが質問されれば、私の描き方はこうしています。とお話します。勿論、私はプロの画家ではありませんが、絵手紙については経験と理論的考えを持っています。
最近、秦野市内小学校の子供たちの絵手紙展が開催され大変な人気でした。神奈川新聞や読売新聞が報道していましたが、「子供は無心ですから人のこころを打つ絵手紙が描ける」のでしょう。 幼稚園や小学校低学年の子供は絵手紙を上手く書く技法を知りません。知識で描くのではなく、感性・感覚で描いているのでしょう。だから形にこだわらず、自分は自分、他人はどう描いているか関心が無い。自分の思ったまま無心に!
私たち大人は知識がありすぎる。他人の目を気にしすぎる。経験に縛られている。習慣によって手を動かしている。こんな大人を打ち破ること。「ヘタでいい」というかけ声で!
絵手紙の絵を心で描くには、人生もう一度素直に子供心に帰ることです。また、好奇心で新しいことに挑戦してみる心を持つことです。そこから、いい絵手紙が生まれてきます。絵手紙の描き方に「絶対」はありません。でも、参考はたくさんあります。ときどき、「見学させてください」と見ている人がいますが、目では描けません。手を動かして描いてみることです。

<第7話 私流のヘタな描き方>

○ 本物をよーく見て描きます。お手本を見て描く事はしません。お手本を見て描くと形は上手く描けますが、自分の心が出てきません。本物をよーく見て描くと形がヘタでも自分の心や感動という味が必ず出てきます。描く本物(素材)は身近なもの(野菜・四季の花・果物・静物そして風景など)を何でも描きます。

○ 「感じてから」描き始めます。本物をよく見ていると、何か私の感覚・心に響いてくるものがあります。「おもしろい形だな」「いい色だな」「旨そうだな」「奇麗だな」と。例えば、リンゴを見て、ただ漠然と「リンゴは赤くて丸い」と描き始めないことです。既成概念でなく「表面だけでなく中身の味、実の固さ」まで見るつもりで。

○ それから描き始めます。基本は鉛筆を使って下描きをします。慣れてきたら色々な筆記用具(→描き方のページ参照)走りすぎの線は心・気持ちが入りません。

○ 描く紙は、葉書大1号の小さい紙ですから始めたばかりの人は戸惑います。そんな人には「楽しい絵手紙にするには、下描きは大きく、紙からはみ出るくらいに描くとよいでしょう」とアドバイスしています。「大きくとは、実物大かそれ以上に大きく」です。小さくコチョコチョ描くよりも、大きく伸び伸び描くことです。

○ [彩色のコツ]使用した葉書の紙質によって彩色の方法は異なりますが、最初から濃く塗らないことです。最初は薄く塗って、乾かしながら様子を見ます。本物をよく見ると、光っているところ、明るいところ、暗いところがあります。よく見たら、濃いところ暗いところを塗っていきます。下絵の線からはみ出しても、あるいは塗り残して白いところがあっても、気にすることはありません。そして、「自分の描きたかった絵の気持ちにぴったりの彩色だ」と思えたら彩色は終わりです。

○ 絵が描けたら手紙として文章を書きます。文章の書き方は既に述べました。その時々の自分の心を伝える言葉・文章を思い出して書きましょう。

○ 最後に雅印を押して完成です。サインでも構いません。全体のバランスを考えて押印します。

<第8話 絵手効果に注目>

私の造った言葉ですが、「絵手紙効果」というものがあります。一人の人間が、絵手紙を始める。友人や親類縁者に手紙を出すと、いろいろな思わぬ反響が出てきます。自分の始めた趣味が、自分自身の充実・満足に留まらず、周囲の人々にまで嬉しい効果を及ぼすのです。
その事が跳ね返って、自分自身にまた新しい発見が出てきます。今まで興味のなかった事柄に関心を持つようになり、新しいことに挑戦するようになります。
「絵手紙効果」というのは、絵手紙をすることにより、今までの習慣にだけ従って生きている生き方から新しい生き方に踏み出すことを意味しています。

<最終話 新しいことに挑戦>

絵手紙を始めると、不思議なことに、いろいろな分野で新しい発見があります。自分自身の知らなかった自分の新しい能力。思わぬ人々との出会い。大自然の素晴らしさ、厳しさの再発見。時間を忘れて熱中できる余裕があったこと。他人が喜んでくれる、自分も他人に尽くす力があったという満足。などなど、たくさんな効果があります。私の例を挙げましょう。

○ 「ダーマート・グラフ」という新素材の筆記用具を始めて使い、風景などを描く事に挑戦しました。それまで使っていた4Bの鉛筆よりも、多種多様な濃淡が描けることにびっくりするとともに、遠近感や明暗がよく描けるようになりました。新しい素材にためらわず挑戦して、自信を持つことができ、皆さんに推薦しました。

○ その他筆記用具として、マッチ棒・爪楊枝・割り箸、枯れ枝と何でも使いました。それぞれの線の違いが味わいとしてわかるようになりました。その時の新しい挑戦は、筆記用具の持ち方でした。いわゆる「包丁持ち」です。

○ 習慣ではなく、新しい「線」の引き方もするようになりました。横に引く線は、右から左へ。縦の線は、下から上へ。丸の線もいつもと逆に書くようにしてみました。初めは書きずらいものですが、よい線が書けます。いわゆる「感覚的な」線です。知識・習慣だけに頼らず、今までにやったことのないことに、好奇心を持って挑戦すれば、もっともっと絵手紙効果が増え、人生楽しくなりましょう。

オール関東絵手紙協会 「講師のための手引き書」より抜粋(無断転載を禁じます)

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